2024年

<公表論文(査読付き)>
1)Regime shift in the northernmost coral ecosystem: decline of the threatened coral Acropora pruinosa due to grazing by Diadema setosum.
Morita, M., Kawashima, N., Fukatani, M., & Yasuda, N.
2023, Bulletin of Marine Science., 1-2 [Link]
[要約]
造礁性サンゴの分布北限にあたる駿河湾沼津での約14年間の水中観察に基づき、温暖化によりガンガゼ Diadema setosum の餌であるガラモ場が消失し、今度は豊富に生息していたエダミドリイシ Acropora pruinosa をガンガゼが捕食するようになったことが原因でサンゴが消滅、さらにサンゴポリプを餌とする死滅回遊魚類も生態系から姿を消したことを報告しました。本研究は、温暖化により温帯域では概してサンゴが増える傾向にある一方で、一部のサンゴは減少することを明らかにし、積極的な保全の必要性を示唆しました。

2)Genetic Divergence of Pocillopora damicornis Between Temperate and Subtropical Regions: The Need to Monitor Hidden Genetic Lineage Distribution With Regard to Migration-Load Risks Under Climate Change
Masumi Kamata, Yuko F Kitano, Akira Iguchi, Yoko Nozawa, Satoshi Nagai, Chaolun Allen Chen, Naohisa Wada, Sen-Lin Tang, Takehisa Yamakita, Hiroki Taninaka, Nina Yasuda
Bulletin of Marine Science, accepted, 2024.02.24
[要約]
近年気候変動に伴う海水温上昇により、日本の亜熱帯域に生息するサンゴが温帯域へ北上・分布拡大している現象が報告されています。この北上に伴うサンゴ集団への影響を考察するために、亜熱帯及び温帯域に広く分布するハナヤサイサンゴ Pocillopora damicornis に着目し、台湾及び日本の亜熱帯域と温帯域に生息する集団において、ミトコンドリアDNAと核の情報から遺伝子型及び遺伝構造の違いを調査しました。また、遺伝子型が亜熱帯域・温帯域の環境の違いに影響を受けているのかをさまざまな環境要因と遺伝子型頻度について一般化線形モデル(GLM)を使って調査しました。結果、亜熱帯域と温帯域で核とミトコンドリアDNAの遺伝子型が異なることが観察され、屋久島周辺を境に遺伝的な分断が見られました。一方でGLMでは2系統の分布は水温だけではなくクロロフィル濃度などにも依存しており、各海域での環境適応が起きていることが示唆されました。そのため、すでに四国の一部で起きているように、今後水温上昇により亜熱帯に多い系統の北上が頻繁に起こって温帯域系統との交雑が起こる場合、適応度の低下による移入負荷が起こるリスクがあると考えられました。本研究は形態ではわからないサンゴの遺伝系統の気候変動に伴う分布の変化モニタリングして追跡することの重要性を明らかにしました。

3)Genetic connectivity and diversity between tropical and subtropical populations of the tropical horned sea star Protoreaster nodosus in the northwest Pacific
Marine Biology
Yuichi Nakajima*, Nina Yasuda, Yu Matsuki, Dan M. Arriesgado , Miguel D.
Fortes, Wilfredo H. Uy, Wilfredo L. Campos, Kazuo Nadaoka
[要約]
沖縄諸島からフィリピンまでの約2500kmにわたる12地点で、コブヒトデ(Protoreaster nodosus)の遺伝的多様性、遺伝的分化、移動パターンを調査しました。405個体を対象に7つのマイクロサテライト遺伝子座を用いて遺伝子型を解析し、アリルの豊富さと期待されるヘテロ接合性を遺伝的多様性の指標として評価しました。期待されるヘテロ接合性のみが緯度の増加に伴いわずかに減少したことが示唆されましたが、沖縄諸島の孤立した集団でも遺伝的多様性が明確に減少していないことが示唆されました。地理的距離と遺伝的分化(ペアワイズFST: -0.005から0.049)は有意に相関していましたが、沖縄諸島とフィリピンの集団間では遺伝的構造が比較的低く、これらの地域間のペアワイズ遺伝的分化はしばしば有意でないことが示されました。歴史的な移動率の解析では、北-南方向への移動が示されました。 

4)Effect of the frequency of multi-specific synchronous spawning on genetic introgression among three Acropora species Coral Reefs
Naoko Isomura, Keisuke Inoha, Akifumi Shimura, Nina Yasuda, Taisei Kikuchi, Kenji Iwao, Seiya Kitanobo, Shun Ohki, Masaya Morita, Hironobu Fukami, Accepted
[要約]
この論文は、サンゴのハイブリダイゼーション(交雑)がどのように起こるのか、特にその繁殖特性や遺伝的構造との関連を調査した研究です。具体的には、日本の南部に位置する阿嘉島と瀬底島に生阿嘉る3種のミドリイシ属サンゴ(Acropora florida、Acropora gemmifera、Acropora intermedia)について、交配実験や遺伝子解析を行い、それぞれの種間の遺伝的混合の程度を評価しました。その結果、これらの種は同所的に生息し、交雑する可能性があるにもかかわらず、繁殖のタイミングや配偶子の互換性が遺伝的な混合に強く関連していないことが示されました。一方、遺伝的構造の解析からは、これらの種の間で過去と最近の両方で遺伝的混合が起こっていた可能性が示されました。

5)Polyamine impact on physiology of early stages of reef-building corals–insights from rearing experiments and RNA-Seq analysis.
Gibu, K., Mizusawa, N., Iijima, M., Ohno, Y., Yasumoto, J., Yasumoto, K., & Iguchi, A. 2024年10月8日 Published

6)トラギス科ホムラトラギスの紀伊半島と石垣島からの分布記録および標徴に関する新知見
深谷真央、松尾 怜、和田英敏. Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 48: 22–27. 2024年10月10日 Published [PDF]

<公表論文(査読なし)>
6)A list of the specimens of Synodontidae (Actinopterygii: Teleostei) deposited in the Department of Zoology, The University Museum, The University of Tokyo
Mahiro Fukatani, Ryusei Furuhashi, Keita Koeda, Hidetoshi Wada, Masahiro Aizawa, Kazuo Sakamoto, Rei Ueshima
The University Museum, The University of Tokyo Material Reports, 132: 75-93. [PDF]
[要約]
東京大学総合研究博物館動物部門(ZUMT)に所蔵されているエソ科魚類標本のべ668標本を整理し目録を作成しました.4属27種が確認され,いくつかのタイプ標本も確認された一方で,行方不明とされていたSaurida macrolepis Tanaka, 1917の1シンタイプおよびSynodus fusucus Tanaka, 1917のホロタイプは依然確認されませんでした.

<学会発表>

【口頭発表】
7) タイトル:Exploring genomic seascape: Understanding diversification of coral reef organisms in the Indo-Pacific
Nina Yasuda(発表者)
学会名:the International Symposium “Genomic Big Bang — Evolution, Biodiversity, and Sustainable Bio-Innovation” at NCKU, Tainan, Taiwan on 7th – 9th May 2024!

8)タイトル:小田原市根府川における魚類調査
深谷 真央(発表者)
学会名:第13回JAUSダイビング研究活動シンポジウム 2024年3月17日

9)ゲノムワイドデータから推定されたヤマメ・アマゴ境界領域周辺における2亜種の集団遺伝構造
深谷真央(発表者)、 川嶋尚正、岩槻幸雄、安田仁奈
学会名:第2回かながわ淡水魚復元研究会シンポジウム 2024年6月30日

10) タイトル:Corals change symbiotic partnerships at the forefront of northward migration in response to climate change
Shimura Akifumi、 Kamata, Masumi、 Kitano Yuko F、Iguchi Akira、Nagai Satoshi、Yamakita Takehisa、Shimizu Shota、Kikuchi Taisei、Yasuda Nina(発表者)
学会名:European Coral Reef Symposium (ECRS) 2024, Naples, Italy, July 2-5th 2024

11) タイトル:Historical geographic isolation drives genetic structure in two Pocillopora spp. in the Coral Triangle
Muhammad Abrar、Takata Kenji(発表者)、Mokodongan Daniel Frikli、Faricha Ana、Kamata MasumiMorita Mukuto、Kikuchi Taisei、Yasuda Nina
学会名:European Coral Reef Symposium (ECRS) 2024, Naples, Italy, July 2-5th 2024

12)MIG-seqデータに基づくトビハゼPeriophthalmus modestusの遺伝的集団構造の検討
深谷 真央(発表者)、阪本 憲司、三浦 好稀、向井 貴彦、安田 仁奈
学会名:2024年度日本魚類学会年会 2024年 9月6日-9日

13)陸棚域八放サンゴ生態系のモニタリングと分布推定に向けた研究 -eDNA基礎知見・遺伝子DBの集積から野外での実践まで-
Monitoring and Distribution Estimation of Deep-seq Octocoral Ecosystems: From eDNA Baseline Knowledge, Genetic Database, and Compilation to Field Application
髙田 健司(発表者)、林原 毅、奥村 知世、目崎 拓真、古井戸 樹、野中 正法、夏 非、山北 剛久、長井 敏、安田 仁奈
学会名:日本サンゴ礁学会第27回大会 2024年 11月28日-12月1日

【ポスター発表】
14) タイトル:Hidden lineagaes and potential deep to shallow connectivity of the brooding coral, Seriatopora hystrix
Takata, Kenji(発表者)、Narita Yuji、Noguchi Nanami、Nagai Satoshi、Kikuchi Taisei、Sinniger Frederic、Harii Saki、 Yasuda Nina
学会名:European Coral Reef Symposium (ECRS) 2024, Naples, Italy, July 2-5th 2024

15)ゲノムワイドデータで明かすコモンサンゴ属(Montipora)の真実~種の境界への挑戦~
Revealing the Truth of Phylogenetic Relationship of Montipora Corals with Genome-Wide Data: A Challenge to Species Boundaries
森田 椋人(発表者) 、野村 恵一 、鈴木 豪 、石川 直子 、陶山 佳久 、安田 仁奈
学会名:日本サンゴ礁学会第27回大会 2024年 11月28日-12月1日

16)タイトル:環境水からのサンゴのストレス関連遺伝子の検出の試み
Preliminary study to detect stress-related genes on corals from environmental sea water samples
宝徳 日向(発表者)夏 非安田 仁奈村上 幹人儀武 滉大鎌田 真壽、清水 庄太
学会名:日本サンゴ礁学会第27回大会 2024年 11月28日-12月1日

17)緯度クラインにおけるコユビミドリイシの微生物叢の解明と機能の検討
Analysis of the microbiome and function of coral Acropora digitifera in latitudinal cline
儀武 滉大(発表者)、喜瀬 浩輝、善岡 祐輝、中島 祐一、齋藤 直輝、酒井 一彦、安田 仁奈、井口 亮
学会名:日本サンゴ礁学会第27回大会 2024年 11月28日-12月1日

18)最北限域静岡県沼津市サンゴ群集の集団遺伝構造
The genetic structure of the northernmost coral community in Numazu City, Shizuoka Prefecture, Japan.
藤野 佑一朗(発表者)森田 椋人、長嶺 輝生、横地 洋之、深見 裕伸、中村 雅子、石川 直子、赫 英紅、陶山 佳久、朝倉一哉、安田 仁奈
学会名:日本サンゴ礁学会第27回大会 2024年 11月28日-12月1日

19)多面的アプローチによるユビエダハマサンゴ(Porites cylindrica)大規模個体群の形成過程推定
Estimating the formation process of large populations of Porites cylindrica using a multi-faceted approach
磯村 尚子、佐野 亘、中野 義勝、安田 仁奈、横山 祐典、宮入 陽介、菅 浩伸
学会名:日本サンゴ礁学会第27回大会 2024年 11月28日-12月1日

20)タイトル:MiCucumber: ナマコの環境DNA分析用ユニバーサルプライマー
MiCucumber: a set of universal PCR primers for metabarcoding environmental DNA from sea cucumbers
夏 非(発表者)、濱本 耕平、宝徳 日向、菊地 泰生、儀武 滉大、井口 亮、安田 仁奈
学会名:日本サンゴ礁学会第27回大会 2024年 11月28日-12月1日

21)タイトル:オニヒトデはサンゴをどう認識し捕食するのか?–嗅覚に着目した遺伝子解析・行動実験–
How do crown-of-thorns starfish recognize and prey on corals? -Genetic analysis and behavioral experiments focusing on olfaction-
鎌田 真壽(発表者) 、喜多村 鷹也、古井戸 樹、目﨑 拓真、儀武 滉大、 井口 亮、本郷 悠貴、梶谷 嶺 、 伊藤 武彦、 新村 芳人、安田 仁奈
学会名:日本サンゴ礁学会第27回大会 2024年 11月28日-12月1日