浜名湖の埋立地に建設された人工水路の魚類群集構造
―隣接した開放的な沿岸海域との比較―
瀧ヶ﨑一弥・佐野光彦
要約 静岡県浜名湖の埋立地に建設されたコンクリート張りの人工水路(幅約4 m, 全長約420 m)において, 物理環境(水質・流速)と魚類群集構造を調べ, 隣接する開放的な海域と比較した. 調査は2012年3月, 6月, 9月に実施した. 水質には, 調査期間を通して人工水路(以下, 水路内)と隣接海域(以下, 水路外)でほとんど差はみられなかった. 一方, 流速は水路内で著しく遅かった. 魚類の総種数は調査期間を通して水路外で有意に多く, 総個体数は6月に水路内で多かった. また, 種組成は水路内と水路外で明瞭に異なった. 総種数が水路内で少なかったのは, 底生定住魚の種数が水路内で少ないことに起因していた. これは, 水路内の底面が砂からなる一様で, 単調な構造であったためと考えられる. 一方, 総個体数が6月に水路内で多かったのは, ヒメハゼの稚魚やメジナの稚魚が多く出現したためであった. また, 水路内にみられた魚類の体長は, 水路外よりも有意に小さかった. 特に水路内では, 体長40 mm以下の稚魚が多かった. 水路内では水流がかなり遅かったため, 稚魚や小型魚にとって水路内は, 水路外の強い水流を避ける場所となっていた可能性が高い. このように, 埋立地の人工水路は多くの魚類にとって適した生息場ではないものの, 稚魚や小型魚などの一部の魚類に対しては重要な生息場となり得ることが示唆された.
La Mer 51: 73-84. 2013年12月.
人工水路