東京湾多摩川河口干潟におけるムロミスナウミナナフシCyathura muromiensis (甲殻類:等脚目)の分布と生息環境特性
堀越彩香・青木 茂・岡本 研
要約 ムロミスナウミナナフシ(等脚目)の生息環境特性を明らかにするため、東京湾多摩川河口干潟の27地点(3定点×9ライン)において2007年と2009年の夏季に本種を含むマクロベントスと環境の調査を行った。その結果、本種の分布は河口原点から上流へ約2 km、下流へ約0.5 kmの範囲であり、その中でも特定のラインに集中し,さらに多くのラインでは岸側の定点に限定されることがわかった。正準対応分析(CCA)は本種を含む主要なマクロベントスが互いに独立する2 つの環境勾配に応答して分布することを見出し、それは河口原点からの距離(塩分の指標とみなせる)および底質の中央粒径値、標高と相関する河川流軸方向の環境勾配と、斜度および底質のORPと相関する環境勾配であった。CCAはまた、後者の環境勾配に対する本種の応答パターンは、主要なマクロベントスの中で本種に特有であることを示した。これら、CCAで分布と関連が示された各環境要因について、本種が多く分布していた定点の値を本種の生息環境特性とみなすと、それは、1) 間隙水塩分が中鹹性~多鹹性(mesohaline~polyhaline) で、2) 2~18%の泥を含んだ、中央粒径が100~280 μmの砂質、3) 潮間帯中~下部、4) 0.8°未満の緩傾斜またはわずかな窪地、5) 底質のORPが深さ5 cmで60~140 mVと十分酸化的な底質、であった。これらの結果は、緩傾斜で酸化的な干潟が本種に特徴的な生息環境であることを示す。
日本ベントス学会誌,66: 71-81.2012年3月.