Predation risks for juvenile fishes in a mangrove estuary: a comparison of vegetated and unvegetated microhabitats by tethering experiments
Nanjo K, Nakamura Y, Horinouchi M, Kohno H, Sano M
マングローブ域における小型魚類の被捕食リスク:マングローブの生育する河川岸部と,生育していない河川中央部における比較
南條楠土・中村洋平・堀之内正博・河野裕美・佐野光彦
要約 沖縄県西表島浦内川のマングローブ域において,3種の稚魚(アマミイシモチApogon amboinensis,セダカクロサギGerres erythrourus,ミナミヒメハゼFavonigobius reichei)の被捕食死亡率を,マングローブが生育する河川岸部と,生育していない河川中央部との間で比較するために,捕食圧実験を行った.アマミイシモチは普段マングローブの根付近(岸部)にのみ分布し,支柱根の内部やその周辺で静止した状態でただよっている定住魚である.一方,セダカクロサギとミナミヒメハゼは岸部と中央部の両方に分布する種である.セダカクロサギは遊泳力のある移動魚であり,ミナミヒメハゼは底土に似せた体色をもち,川底に静止していることの多い定住魚である.実験の結果,アマミイシモチの死亡率は中央部よりも岸部で有意に低かった.その一方で,他の2種の死亡率は岸部と中央部で異ならなかった.さらに,目視観察の結果,捕食者である魚食魚の種数と個体数は中央部よりも岸部で有意に多く,岸部は潜在的に被捕食リスクの高い場所であることがわかった.アマミイシモチの死亡率が低かったのは,支柱根の構造を利用する対捕食者戦略をもつためであると推察された.一方,セダカクロサギとミナミヒメハゼの死亡率に岸部と中央部で違いがみられなかったのは,高速遊泳や隠ぺい色といった支柱根の構造を利用しない対捕食者戦略をもつためであると考えられた.
Journal of Experimental Marine Biology and Ecology, 405: 53-58. 2011年8月.