Effects of mangrove structure on fish distribution patterns and predation risks

Nanjo K, Kohno H, Nakamura Y, Horinouchi M, Sano M.

 マングローブの物理構造が魚類の分布パターンと捕食リスクに及ぼす影響

南條楠土・河野裕美・中村洋平・堀之内正博・佐野光彦

 

要約　熱帯のマングローブ域には，砂地などの平坦な水域に比べて多くの魚類が生息することが知られている．この理由のひとつとして，マングローブの複雑な根の構造や枝葉による陰が，小型魚類にとって捕食者からのシェルターとなるためであると考えられてきた．しかし，この仮説を野外実験で具体的に検証した例はほとんどないため，マングローブのどのような物理的要素が魚類の分布や捕食リスクに影響を及ぼすのかはよくわかっていない．そこで本研究では，沖縄県西表島浦内川のマングローブ域において，マングローブの根の構造（垂直棒）と枝葉による陰（遮光カバー）を再現した野外実験により，マングローブの物理構造が小型魚類の分布パターンと捕食リスクに及ぼす影響を検討した．実験１では棒と陰の組み合わせを変えた区を，実験2では棒密度を変えた区を野外に設置し（図参照），各区に棲みつく魚類を目視観察で調べた．その結果，陰の有無に関わらず，魚類は棒構造のある区に棲みつき，逆に構造のない区には棲みつかなかった．また，棒密度の高い区ほど多くの魚類が棲みついた．次に，棒密度の異なる区内で魚類の糸つなぎ実験（捕食圧実験）を行った結果（図参照），小型魚類の生残率は棒密度の高い区ほど高かった．したがって，マングローブの根の構造による捕食者からのシェルター機能は小型魚類の分布を決定する重要な要因のひとつであり，その効果は根の密度の高い場所でより有効であることが判明した．

Journal of Experimental Marine Biology and Ecology, 461: 216–225. 2014年12月．

 

野外実験で用いた各実験区